RUNES IN THE OLD RECORDS
ᚠ ᚢ ᚦ ᚨ ᚱ ᚲ
ルーンは、まず文字でした。石碑や道具に、人の名前や短い言葉を刻むための文字です。
けれど、千年以上前の書物をひもとくと、ルーンや「言葉の力」をめぐる不思議な場面に出会います。神がルーンをつかみ取る詩、戦乙女が英雄に教えたルーン、病の娘を救った詩人、今も写本に残る呪文の歌。ここでは、そうした古い資料をひとつずつ訪ねていきます。
どれも物語や詩、旅人の記録です。そのまま歴史の事実とは言えないものもありますが、北の人々が言葉と文字にどんな力を感じていたのかを、静かに伝えてくれます。
出典:タキトゥス『ゲルマニア』第10章(紀元98年ごろ)
ローマの歴史家タキトゥスは、ライン川の向こうに暮らすゲルマンの人々について一冊の本を残しました。その中に、彼らの占いを書きとめた一節があります。
彼らほど、鳥の占いとくじの占いを重んじる人々はいない。くじのやり方は簡単である。実のなる木から枝を切り、小さな札に分け、それぞれに印をつけて、白い布の上に無造作にまき散らす。
公のことであれば部族の祭司が、家のことであれば家長が、神々に祈り、天を仰ぎながら、札を一枚ずつ三度拾い上げる。そして、先に刻まれた印にしたがって、それを読み解くのである。
白い布、三つの札、天を仰ぐ祈り。今のルーン占いで「三つのルーンを引く」読み方を思わせる場面です。
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出典:『ハヴァマール(高き者の言葉)』第138〜139節(『古エッダ』所収、写本は13世紀)
北欧神話の神々の長オーディンは、知恵を求めて、自分の身をささげたと語られます。13世紀のアイスランドの写本に残る詩『ハヴァマール』で、オーディン自身がその夜のことを語ります。
Veit ek, at ek hekk vindga meiði á nætr allar níu, geiri undaðr ok gefinn Óðni, sjalfr sjalfum mér …
わたしは知っている。
風の吹きすさぶ木に、九つの夜のあいだ吊り下がっていたことを。
槍に傷つき、オーディンにささげられて。
わたし自身を、わたし自身に。
その木の根がどこから伸びているのか、誰も知らない。
… nam ek upp rúnar, æpandi nam, fell ek aptr þaðan.
パンも、角杯の飲み物も与えられず、
わたしは下をのぞき込んだ。
ルーンをつかみ取った。叫びながら、つかみ取った。
そして、そこから落ちた。
ルーンは、人が発明したものではなく、神が命がけで「見つけ出した」もの。この詩は、ルーンにそんな重みを与えています。少しあとの節では、ルーンを扱う者への問いかけが続きます。
刻み方を、知っているか。読み解き方を、知っているか。
彩り方を、知っているか。試し方を、知っているか。
祈り方を、知っているか。ささげ方を、知っているか。
出典:『ハヴァマール』第146〜163節(「呪文の歌の目録」と呼ばれる部分)
ルーンを得たオーディンは、続けて「わたしは歌を知っている」と、18の呪文の歌(ガルドル)を数え上げます。古ノルド語のガルドル(galdr)は、「唱える」という言葉から来た、力のある歌のこと。その一部を紹介します。
歌の中身そのものは書かれておらず、「何ができる歌か」だけが語られます。言葉そのものに、世界を動かす力があると考えられていたことが伝わってきます。
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出典:『シグルドリーヴァの言葉』第6〜13節(『古エッダ』所収)
英雄シグルズが、炎に囲まれた山で眠るワルキューレ(戦乙女)シグルドリーヴァを目覚めさせます。目を覚ました彼女は、お礼にさまざまなルーンを教えます。それぞれのルーンを、どこに刻むかまで語られるのが印象的です。
出典:『エギルのサガ』第44章・第72章(13世紀アイスランド)
アイスランドのサガ(物語)には、10世紀の詩人エギルが、ルーンを使う場面が何度も出てきます。
宴の席で、毒の入った角杯を差し出されたエギル。彼は角杯にルーンを刻み、自分の血で彩りました。すると角杯は割れて砕け、飲み物は床にこぼれた、と語られます。
旅の途中、エギルは長く病に伏せる娘のいる家に泊まります。調べてみると、娘の寝床に、ルーンを刻んだ鯨の骨が置かれていました。近くの若者が、娘のために刻んだものでした。ところが、その刻み方が間違っていたのです。エギルは文字を削り取って骨を火にくべ、新しいルーンを刻んで枕の下に置きました。娘は目を覚まし、快方に向かったといいます。このとき、エギルはこう詠みました。
Skalat maðr rúnar rísta, nema ráða vel kunni …
人はルーンを刻むべきではない、
よく読み解く力がないのなら。
暗い文字に迷う者は、多いものだ。
削られた鯨の骨に、十の秘めた文字が刻まれているのを見た。
それが乙女に、長い苦しみをもたらしたのだ。
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出典:メルゼブルク大聖堂図書館の写本(10世紀、古高ドイツ語)
1841年、ドイツのメルゼブルク大聖堂の図書館で、古い写本の空いたページに書き込まれた二つの短い呪文が見つかりました。キリスト教以前の神々の名前が出てくる、とても珍しい「本物の呪文の歌」です。ルーン文字ではなく普通の文字で書かれていますが、オーディン(ヴォーダン)が唱える、まさにガルドルの姿を伝えています。
二つめの呪文は、けがをした馬の脚を癒すためのものです。
Phol ende Uuodan vuorun zi holza … bên zi bêna, bluot zi bluoda, lid zi geliden, sôse gelîmida sîn.
フォルとヴォーダンが、森へ馬を走らせた。
そのとき、バルドルの子馬が脚をくじいた。
シントグントが唱えた、その姉妹スンナも。
フリーアが唱えた、その姉妹フォッラも。
ヴォーダンが唱えた、彼こそはよく心得ていたから。
骨のくじきも、血のくじきも、手足のくじきも。
骨は骨へ、血は血へ、
手足は手足へ。にかわでつけたように。
「骨は骨へ、血は血へ」。同じ形をくり返し、リズムにのせて唱える。言葉の響きそのものが、癒しの力を運ぶと考えられていたのでしょう。
出典:古英語ルーン詩(8〜10世紀ごろ)、ノルウェー・ルーン詩(13世紀)、アイスランド・ルーン詩(15世紀)
ルーンのひとつひとつを、短い詩で歌ったものが三つ残っています。文字を覚えるための歌だったとも考えられています。ルーンの森で紹介している各ルーンの意味も、これらの詩をよりどころにしています。
Feoh byþ frofur fira gehwylcum; sceal ðeah manna gehwylc miclun hyt dælan …
富は、人みなの慰め。
けれど誰もが、惜しまず分け与えねばならない。
主の前で誉れを得たいと願うなら。
Is byþ oferceald, ungemetum slidor, glisnaþ glæshluttur gimmum gelicust …
氷は、ひどく冷たく、たいそう滑る。
ガラスのように澄んで、宝石のようにきらめく。
霜でできた床は、見るも美しい。
古英語ルーン詩には、こんな物語もあります。この詩が書かれた写本は、1731年の図書館の火事で焼けてしまいました。今わたしたちが読めるのは、焼ける前の1705年に、ある学者が本に書き写して出版していたからです。
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出典:『赤毛のエイリークのサガ』第4章(13世紀アイスランド)
飢えに苦しむ冬のグリーンランド。ある農場に、ひとりの巫女(ヴォルヴァ)が招かれます。サガは、彼女の姿をくわしく書き残しています。
儀式のために、巫女は「霊を呼ぶ歌(ヴァルズロックル)」を歌える人を求めました。名乗り出たのは、若い女性グズリーズ。子どものころ、育ての母から教わった歌でした。彼女がとても美しく歌うと、それまで離れていた多くの霊がやって来た、と巫女は告げます。そして巫女は、厳しい冬が春には終わること、そしてグズリーズに輝かしい未来が待っていることを予言しました。
ここまで見てきたように、古い資料には「ルーンを刻む」「言葉を唱える」「くじを引く」「巫女が予言する」場面が、ばらばらに残っています。けれど、24文字のルーンを袋から引いて意味を読む、という今の形そのものは、古い資料には書かれていません。
今のルーン占いは、こうした断片やルーン詩をもとに、20世紀になって形づくられた、新しい読み方です。ルーンの森では、古い資料と今の占いをきちんと分けたうえで、今の自分と対話するための道具として、ルーンを使っています。
オーディンが九つの夜をかけてつかみ取った文字。シグルドリーヴァが英雄に手渡した文字。千年の時を越えて届いたその文字を、今日のあなたも、ひとつ引いてみませんか。
図版について このページの絵と写本の画像は、どれも著作権の保護期間が終わったパブリックドメインの作品です(ウィキメディア・コモンズより)。
訳について 古い資料の日本語訳は、このページのために作った抄訳です。原文の一部を省いたり、読みやすく言葉を補ったりしています。