連れ去る天使ではありません。
迎えに来て、その先を案内する天使です。
そして、遺された人のそばに、いちばん長くいます。
アズラエルの名は、「神が助ける」という意味です。死をつかさどる天使の名が、助けるという言葉でできています。
イスラム教では、四大天使のひとりに数えられます。ジブリール(ガブリエル)、ミーカーイール(ミカエル)、イスラーフィール、そしてアズラーイール(アズラエル)。クルアーンでは「死の天使」と役目の名で呼ばれ、アズラエルという名は、のちの伝承のなかで結びつきました。
土をとってきた天使
イスラムの伝承に、人がまだ造られていなかった頃の話が残っています。人の体をこしらえるために、大地から土を取ってくるよう、天使たちに命が下りました。
けれど大地は拒みました。この土から造られるものは、いつか死ななければならない。そう知っていたからです。ジブリール、ミーカーイール、イスラーフィール。行った天使たちは、みな手ぶらで帰ってきました。
最後に行ったのがアズラエルでした。そしてこの天使だけが、土を持って帰ってきます。役目を果たしたことに対して与えられたのが、いちばんつらい仕事でした。人の終わりに立ち会いつづけるという役目です。
誰もやりたがらないことを引き受けた者が、そのまま誰もやりたがらない役目を負う。物語としては、あまり優しくない話です。けれど、この天使の性質はここにあります。いやがらずに来る。それがアズラエルです。
連れ去る天使ではない
古い絵や物語のなかには、恐ろしげな姿で描かれたアズラエルもいます。それは死そのものがこわかった時代の言葉です。
いま伝えられているこの天使は、そうではありません。奪いに来るのではなく、迎えに来る。知らない道の先を、はじめに歩いて見せてくれる天使です。
ミカエルは、こわいものからあなたを守る天使。
アズラエルは、こわくなくなるまで、隣にいる天使です。
アズラエルの絵は、静かなものばかりです。急ぐものが何もありません。
手燭
小さな灯りをひとつ持って、先を歩く姿。遠くまで照らす光ではありません。次の一歩ぶんだけ見えていれば、人は歩けるものです。
一枚の葉
玉座の下に大きな木があって、そこから葉が一枚ずつ落ちてくる。その葉に名が書かれていると伝えられます。突然ではなく、順番があるという話です。
巻物
名を記し、そして消すための書。生まれたときに書き入れられ、終わるときに消されます。消されても、書かれていたことは残ります。
卵殻色の光
この天使の光は、バニラクリームのような淡い黄白色だと伝えられます。まぶしくない光です。弱った目にも痛くない色をしています。
アズラエルは、大切なものを失った人のそばに来る天使です。その悲しみに大小の区別はつけません。
名を三度呼んでから、静かに伝えます。この天使には、泣きながらでかまいません。整えてから話す必要のない、数少ない相手です。
悲しみのなかで
見送る人のそばで
言葉を用意するときに
伝えたあとは、手放します。この天使からの返事は、静けさの形で来ます。何も変わっていないのに、息が少しだけ深くなる。それが返事です。
終わりに「ありがとうございました」とひとこと添えると、心がきれいに閉じます。
大切な人や生きものを見送るとき、アズラエルはいちばん近くにいます。そばにいる時間から、見送ったあとまで。
そばにいる時間
まだ言葉を交わせるうちは、交わしてください。返事がなくなってからも、耳は最後まで働いていると言われます。何を話してもかまいません。今日の天気でも、昔の失敗の話でも。
部屋を明るくしすぎないほうがよいでしょう。声も、大きくしなくて大丈夫です。手を握れるなら握って、心の中でアズラエルの名を呼んでおきます。あなたのその手が、いちばん近い灯りです。
お見送りのあとの、最初の数日
何も感じない人がいます。涙が出ない人もいます。悲しみは、いっぺんに来ることは少ないです。ゆっくり来ます。
この時期にできることは、ひとつだけです。まずは食べて、寝てください。祈りも供養も、そのあとで間に合うでしょう。
話しかけてよいのか
よいのです。話しかけてください。心の中でも、声に出しても。返事がないのが当たり前ですし、返事を求めなくてもかまいません。伝えるという行為のほうに意味があります。
言えなかったことがあるなら、いま言ってください。遅すぎるということは、この天使の領分にはありません。
悲しみに、期限はありません
四十九日を過ぎても、一周忌を過ぎても、悲しいままでかまいません。周りが先に日常へ戻っていくので、取り残されたように感じる時期が来ます。それは普通のことです。
まだ立ち直れていない自分を責めはじめたら、そのときこそ呼んでください。この天使は、置いていかれたと感じている人のところに、いちばん長くいます。
付き添う人のために
誰かの悲しみに付き添う立場になったとき、この天使は言葉を選ぶのを助けてくれると伝えられています。何が正解なのかわからなくて大丈夫です。多くの場合、そばに寄り添うことが大切になります。
この天使のしるしは、何かを知らせるためのものではありません。ここにいます、とだけ伝えるためのものです。
卵殻色の光の粒
部屋の隅に、淡い黄白色の小さな光がちらつくことがあります。まぶしくない、やわらかい光です。
急に静かになる
状況は何も変わっていないのに、胸のざわつきだけがすっと引く。いちばん多い現れ方です。
はっきりした夢を見る
亡くなった人が出てきて、ふつうに話している夢。目が覚めたあとも感触が残っているなら、会っています。
灯りがゆれる
風のない部屋で、ろうそくの火がふっとゆれる。手燭を持つ天使の、短い返事です。
その人のものが出てくる
片づけていて、探していなかったものが出てくる。写真、手紙、書きかけのメモ。いい時期に出てきます。
やっと泣ける
ずっと出なかった涙が、何でもない日にあふれる。ようやく安全になったということです。
これらは、何かが起こる前ぶれではありません。アズラエルのしるしは、予告のためではなく、付き添うために置かれます。
アズラエルが来るのは、だれかの死のときだけではありません。何かが終わったという感覚があるなら、そこはこの天使の領分です。
どれも、悲しみを伴うことです。誰も死んでいないのだから、と自分に言い聞かせる必要はありません。終わりは終わりですし、悲しみは悲しみです。
曜日を持たない天使
曜日を守るのは、ミカエルからカシエルまでの七大天使です。アズラエルはその輪にも、生命の樹の座にも入っていません。決まった日を持たないというのは、いつでも来られるということでもあります。悲しみは曜日を選んで来ないので、そのほうが理にかなっています。
呼びかけるなら、夜
しつらえは要りません。強いて言えば、灯りをひとつ。白か、生成りの蝋燭を一本つけて、そばに座ります。何も唱えなくてかまいません。火を見ているあいだが、そのまま祈りの時間です。
写真を出しても、出さなくてもかまいません。まだ見られない時期があります。それも普通のことです。
一枚の葉のこと
玉座の下の木から、名の書かれた葉が一枚ずつ落ちてくるという話があります。読み方によってはこわい話に聞こえますが、この伝承がほんとうに言っているのは、順番があるということです。
誰かがうっかり忘れられることも、順番を飛ばされることもない。あなたが見送ったあの人にも、ちゃんと葉が落ちて、迎えが来た。そう受け取ってよい話だと思います。
アズラエルは、曜日にも生命の樹の座にも属さない天使です。
生命の樹の図をひらく →
アズラエルに寄り添う石と香りです。手元にあるものから、ひとつ選んでみてください。
石
イエローカルサイト
アズラエルにもっとも近いとされる石です。淡い黄色が、この天使の光の色をしています。悲しみのなかにいる時期、手のひらに収まる大きさのものを握ってください。柔らかく水に弱い石なので、洗わずに布で拭くだけにします。
握れる大きさを / 水は避けるアンジェライト
やわらかい水色の石。名前のとおり、天使に結びつけられてきました。話しかけたいことがある夜、枕元へ。水に長くつけると崩れることがあるので、乾いたままで扱ってください。
話したい夜、枕元に / 水厳禁フラワーアゲート
石の中に、花が咲いたような白い模様が広がっています。焼け跡から芽が出るような姿で、失ったあとの時期のための石です。まだ何も始められない頃に、見えるところへ置いてください。眺めるだけでよい石です。
まだ動けない時期に / 眺めるだけでスモーキークォーツ
煙のような灰褐色の水晶。感情が大きく揺れているとき、足元へ戻してくれます。眠れない夜は、枕元ではなく足のほうへ置いてください。丈夫な石なので、扱いに気をつかわずにすみます。
眠れない夜、足のほうへハーブと香り
ヘリクリサム(イモーテル)
悲しみに直接触れる、数少ない香りです。乾いても色が変わらないことから、不死の花と呼ばれてきました。胸の上に、植物油で薄めてひと塗り。一滴ずつ大切に使ってください。※妊娠中・授乳中の方や乳幼児、敏感肌の方はご使用をお控えください。
胸に薄くひと塗り / 一滴ずつマンダリン
柑橘のなかでいちばんやさしい香り。何も食べたくない時期、部屋にほんの少し漂わせてください。子どもや年配の方にも使いやすい香りです。夜に向いていて、眠りを妨げません。
食欲のない時期に / 夜でも使えるローマンカモミール
泣きつかれた夜のための香りです。お茶にすれば、胃と眠りの両方を助けます。精油は薄めて手首へ。※キク科の植物なので、アレルギーの方は控えましょう。
泣き疲れた夜に菊花(キク)
この国で、いちばん長く見送りに使われてきた花です。飾るだけでなく、菊花茶として飲むこともできます。泣いて熱を持った目に、古くから使われてきました。仏花のイメージが強い花ですが、生きている人の体をいたわる草でもあります。※キク科の植物なので、アレルギーの方は控えましょう。
お茶にして / 泣いたあとの目に体調や持病のことでお使いに迷われたら、専門の方にご相談のうえお楽しみください。
亡くなったペットに話しかけて、届いていますか。
届いています。名前を呼んで、そのまま話しかけてください。この天使は、相手が人かどうかを分けません。返事がないのが当たり前ですし、返事を求めなくてかまいません。言えなかったことがあるなら、いま言ってよいのです。遅すぎるということは、この天使の領分にはありません。
引っ越しや退職などで、人間関係がかわりさみしいです。
アズラエルの領分です。毎日会っていた人に、もう会わない。それは確かに終わったことで、さみしくて当然です。誰も死んでいないのだから、と自分に言い聞かせなくて大丈夫です。名を呼んで、さみしいとそのまま伝えてください。
もう何年もつらい気持ちが続いています。
悲しみに期限はありません。周りが先に日常へ戻っていくので、取り残されたように感じる時期が来ます。それも普通のことです。何年たっていても、名を呼べばアズラエルは来ます。この天使は、置いていかれたと感じている人のところに、いちばん長くいます。
何かにさよならしたあと、
おもいがあふれてしまうことがあると思います。
その重さを、アズラエルは知っています。
名を呼んでみてください。あなたが泣き止むまで、
いつまでも寄り添います。