かつて人だったことを、覚えている天使。
だから、疲れることも、迷うことも知っています。
いちばん高い場所から、いちばん近くを見ています。
メタトロンは、もとは人だったと伝えられる天使です。天使の中で、これはたいへん珍しいことです。
ほかの大天使の名は、たいてい「エル」で終わります。ミカエル、ガブリエル、ラファエル。エルは神をあらわす語です。けれどメタトロンの名には、それがありません。天使として生まれた者ではないからだ、と昔から言われてきました。
名の由来もはっきりしていません。玉座のかたわらに立つ者を意味するギリシャ語から来たという説、道を測り先に印を置く者という語から来たという説。どちらにも共通しているのは、いちばん近くにいて、先を測るという役目です。
三百六十五年を歩いた人
創世記に、エノクという人の名が短く出てきます。三百六十五年を神とともに歩き、そして「神が取られたので、いなくなった」と書かれています。死んだとは書かれていません。この一行の余白から、たくさんの物語が生まれました。
ヘブライ語で書かれたエノク書──第三エノク書、あるいは宮殿の書と呼ばれる文書に、その続きがあります。天に上げられたエノクは、肉を炎に変えられ、七十の名を与えられ、すべての天使の上に置かれます。そして新しい名を授かりました。メタトロン、と。
同じ書物には、その姿も記されています。翼は七十二枚。眼は数えきれないほど。光の入った衣を着せられ、頭には冠を戴いています。人だった者が、そこまで変えられたという話です。
天の書記として
メタトロンの役目は、書くことです。人がしたことを記し、祈りを取り次ぎ、天の秘密を預かります。臨在の君と呼ばれるのは、神のいちばん近くに座を持つからです。
ラビ・イシュマエルという人が天に上ったとき、案内したのもこの天使でした。七つの宮殿を通り、玉座の前まで導いて、そこで自分の来歴を語ります。わたしはもと人であった、と。地上を知っている者が案内役をつとめる。そういう構図になっています。
カバラの生命の樹では、いちばん上のセフィラ、ケテル(王冠)に置かれます。そしていちばん下のマルクトには、サンダルフォン。この二柱はどちらも人から天使になったとされ、樹の上と下で対になっています。
ミカエルは前に立って守る天使。
メタトロンは、いちばん高いところから、あなたの一日を書き取っている天使です。
メタトロンには、剣も天秤もありません。持っているのは、書くための道具と、形です。この天使の仕事が、断つことでも量ることでもなく、記すことだからです。
ペンと巻物
天の書記のしるしです。人がしたこと、選んだこと、こらえたこと。誰も見ていなかった場面も、この天使は書き留めています。見られていたと知ると、少しだけ背筋が伸びます。
神聖幾何学
円と線でできた図形。メタトロンキューブと呼ばれます。世界を組み立てている骨組みを、そのまま図にしたものです。あとの章でくわしく書きます。
炎の柱
人だった体が炎に変えられたという話から来ています。燃やす火ではなく、立ちのぼる火。上へ向かう動きそのものが、この天使のかたちです。
冠
生命の樹のいちばん上、ケテルは「王冠」という意味です。頭の上にあって、まだ自分ではないもの。人が最後にたどりつく場所を、この天使が預かっています。
色は、白と真珠色。紫と緑の縞の光として見えるとも伝えられています。どちらも、はっきりした一色にならない色です。天と地のあいだに立つ天使らしい色だと思います。
メタトロンは、生き方が変わろうとしているときの天使です。困りごとを取り除くというより、あなたの立っている場所を一段上から見せてくれます。
名を三度呼んでから、静かに伝えます。声に出しても、心の中でもかまいません。この天使は人だったことがあるので、うまく言えなくても伝わります。
道が変わろうとしているときに
学びをはじめるときに
子どものために
伝えたあとは、手放します。この天使からの返事は、たいてい出来事の形で来ます。数日たってから「あれがそうだった」とわかることが多いので、あわてなくて大丈夫です。
終わりに「ありがとうございました」とひとこと添えると、心がきれいに閉じます。
この天使を語るとき、必ず出てくる図形があります。メタトロンキューブと呼ばれるものです。
作り方は単純です。円をひとつ描き、そのまわりに同じ大きさの円を並べていくと、花のような配置ができます。フルーツ・オブ・ライフと呼ばれる十三の円です。その十三の中心を、すべて線で結ぶ。それだけで、この図形になります。
おどろくのはここからです。引かれた線の中に、五つの立体がすべて含まれています。正多面体と呼ばれる、面がすべて同じ形をした立体。この世に五種類しか存在しないことが、古代ギリシャの時代にすでに証明されていました。
火・地・風・水、そしてそれらを包む五つめ。世界を組み立てている材料が、たった十三の円から出てくる。書記の天使がこの図形と結びつけられたのは、当然のことだったのかもしれません。記録するというのは、そもそも世界の仕組みを知っているということだからです。
部屋に置くとき
図形そのものを飾ってもかまいません。木や金属に刻まれたもの、布に描かれたものが手に入ります。セレナイトの板に彫られたものは、とくにこの天使と相性がよいと伝えられています。置き場所は、部屋の中心か、いちばん高い棚の上。空気が動かないところを選んでください。
自分で描いてみる
コンパスがあれば描けます。円を十三、そして中心を線で結ぶ。集中がいるので、途中で考えごとが止まります。それがこの図形のいちばんよい使い方かもしれません。描き終えた紙は、机の引き出しに入れておくと落ち着きます。
頭の上で回すイメージ
道具がなくてもできる方法です。目を閉じて、頭の上に光でできた立体がゆっくり回っているところを思い浮かべます。回りながら、重いものを弾いていく。三分ほどで十分です。人の多い場所から帰った日、話を聞きすぎた日に向いています。
この天使のしるしは、形をしています。言葉より先に、図や数のかたちで届くことが多いのです。
幾何学模様が目につく
タイル、雪の結晶、蜂の巣、花の中心。急に形そのものが気になりはじめたら、この天使が近くにいます。
白い光の粒
目を閉じたときや、暗い部屋で、細かい白い粒がちらつくことがあります。メタトロンの光の見え方のひとつです。
書きたくなる
急にノートを買いたくなる、記録をつけはじめたくなる。書記の天使は、まず「書く気」を置いていきます。
子どもが寄ってくる
よその子に急になつかれる、子どもの話が続けて耳に入る。感じやすい子どもたちを見ている天使なので、その方向から知らせが来ます。
頭の上があたたかい
つむじのあたりが、じんわり熱を持つ。冠のセフィラを預かる天使ですから、触れてくる場所も頭の上です。
同じ数字が続く
時計、レシート、番号札。同じ並びを何度も見る日があります。数はこの天使のいちばん短い言葉です。
メタトロンの座は、生命の樹のいちばん上、ケテルです。王冠という意味の言葉で、樹の外に半分はみ出している場所とも言われます。まだ形になっていないもの、これから降りてくるものが置かれている場所です。
曜日を持たない天使
七つの曜日を守るのは、ミカエルからカシエルまでの七大天使です。それぞれに惑星があり、セフィラがあります。メタトロンはその輪の外にいます。ケテルに配されているのは惑星ではなく、原動天。すべての天体を動かしている、いちばん外側の動きそのものです。動かされる側ではなく、動かす側にある場所ですから、曜日にも属しません。ですから、いつ呼びかけてもよい天使です。
上と下で、対になる二柱
樹のいちばん下、マルクトにはサンダルフォンが立っています。この二柱は、どちらも人から天使になったと伝えられ、兄弟とも呼ばれます。いちばん高い場所といちばん低い場所を、人だった者が守っている。カバラの伝承のなかで、これはとても大事なところです。天と地は、人を通してつながっているという意味になるからです。
呼びかけるなら、夜
時間の決まりはありませんが、静かな夜が向いています。灯りを落として、白い蝋燭を一本。頭の上に空間を感じられる場所がよいので、天井の低い部屋なら、外に出て空の下でもかまいません。
記すこと
書記の天使に呼びかける日は、何か書いておくとよいでしょう。願いごとでなくてかまいません。今日あったこと、いま抱えていること、決めきれずにいること。書いたものは残しておきます。あとで読み返したとき、答えがすでに書いてあることがあります。
メタトロンが立つのは、いちばん上のケテル。
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メタトロンに寄り添う石と香りです。手元にあるものから、ひとつ選んでみてください。
石
セレナイト
白く繊維の走る石。メタトロンにいちばん近いとされます。棒状のものを一本、頭の側の枕元に置いてください。他の石を上に載せると、その石も整います。水にたいへん弱く、濡らすと表面が溶けて曇るので、洗わずに乾いた布で拭いてください。
枕元に一本 / 水は厳禁ラブラドライト
角度を変えると、内側から青や金の光が走ります。見る位置で姿が変わる石で、物事を一段上から見たい日に向いています。鞄に入れて持ち歩き、迷ったときに取り出して光の出る角度を探してください。探しているあいだに、頭が切り替わります。
迷った日に持ち歩くハーキマーダイヤモンド
両端がとがった、小さく透明な水晶。夢を覚えていたい時期に、枕の下か枕元へ。強く働く石なので、眠りが浅い方は昼のあいだだけ机に置くほうがよいでしょう。小さくてかまいません。大きさは関係のない石です。
夢を見たい夜に / 小粒で十分ウォーターメロントルマリン
中心が桃色、外側が緑。ひとつの石の中に二つの色が同居しています。人と違うことで苦しんでいる子どものそばに置くと、よく働くと伝えられています。子ども部屋の棚に、見える形で置いてください。
子ども部屋に / 見える場所へハーブと香り
ミルラ(没薬)
乳香と対になる、古い樹脂の香り。乳香が上へ向かうのに対して、こちらは深く下ろします。書きものをはじめる前にひと焚きすると、余計な考えが静まります。
書きはじめる前にシダーウッド
神殿を建てるのに使われた木の香り。頭ばかり働いて体が置き去りになった日に、ディフューザーで薄く広げます。柱のようにまっすぐ立つ香りなので、姿勢が自然に伸びます。夜に向いていて、眠りを妨げません。
夜のディフューザーにベンゾイン(安息香)
バニラに似た、甘く温かい樹脂。心細い夜、寒々しい部屋に。粘度が高いので、少量ずつ取り出して使います。※皮膚刺激があるため、肌に使うときは低濃度に薄めてください。
心細い夜に / 肌には低濃度でネロリ
橙の花から採れる香り。人だった天使に、いちばん似合う香りだと思います。泣いたあと、決めきれずに疲れた日に、ティッシュへ一滴。
泣いたあとに一滴体調や持病のことでお使いに迷われたら、専門の方にご相談のうえお楽しみください。
ヒトが天使になったというのは、どういうことですか。
創世記に、エノクという人が三百六十五年を神とともに歩き、そのまま取り去られたと書かれています。死んだとは書かれていません。ヘブライ語エノク書は、その続きとして、エノクが天でメタトロンという名を与えられたと伝えています。人だったからこそ、人の疲れも迷いもわかる天使だということです。
メタトロンキューブとは、なんですか。
飾る、描く、思い浮かべる。この三つです。彫られた板やカードを部屋の中心か高い棚に置く。コンパスで自分で描く。目を閉じて頭の上で回っているところを思い浮かべる。どれも効きます。人の多い場所から帰った日には、三つめがいちばん早いでしょう。
サンダルフォンとは、どういう関係ですか。
兄弟と伝えられています。どちらも人から天使になった存在で、メタトロンは樹のいちばん上のケテル、サンダルフォンはいちばん下のマルクトに立ちます。天のはしと地のはしを、人だった二柱が守っている。そういう形になっています。
誰にも見られていないと思って、こらえてきたことがあると思います。
その一つひとつを、メタトロンは書き留めています。
名を呼んでみてください。あなたはさらに導かれていくでしょう。